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イメージの裏切りで深層心理を覗くルネ・マグリット【美術解説・アーティスト紹介】

イメージの裏切りで深層心理を覗くルネ・マグリット
【美術解説・アーティスト紹介】

はい!皆さんこんにちは!
今回YouTubeチャンネル「ExpotionTV」ではルネ・マグリットを取り上げました。
動画を見て無い方は是非ご視聴お願いします!良かったらチャンネル登録もしてくれたら喜びます!!

ルネ・マグリットはシュルレアリスムの画家で不思議な絵で有名です。
絵だけなら観た事がある人は居ると思うのですがどうでしょうか。
かといって作品を観て「これは何だろうか?」と疑問を持つ方も多いと思います。
今日はマグリットはどんな人物で作品の意味は何なのか考えて行きたいと思います。

特にシュールレアリスムの作品は人の真相真理が大きなテーマになっているので
人物像を知るとより面白いかと思います。

プロフィールと略歴 ルネ・マグリット

1898年 ベルギーのレシーヌで生まれる
仕立て屋の一家で兄弟は弟が2人、活発でいたずら好きの少年でした。
絵を描き始めたのは12歳の時で、絵画教室に通い始めます。

1912年 母が自殺
もともと精神が不安定だった母が入水自殺で亡くなってしまいます。
この時遺体の顔にかけられていたドレスはルネの脳裏に深く焼き付く事になります。
彼の作品にたびたび登場する顔が布で覆われた人物はこの時の光景が強く反映されていると言われています。

1915年 印象主義に影響を受ける
高校に進学しても絵画制作は続けます。
この頃は印象派のような風景画を描いていました。

1916年 美術学校に入学
しかし古典ばかり扱う授業が退屈で、この時すでに印象派以降に出てきた前衛芸術に興味が向いていました。
特にキュビスム、未来派の影響を受けます。

1921年 兵役
大戦終了後はダダの運動に参加します。

1922年 結婚
高校生時代に出会っていた女性ジョルジェットさんと再開、結婚します。

1923年 広告デザイナーへ転身
この頃はまだ絵で生計を立ていませんでした。
壁紙工場で働き、後は広告デザインで生計を立てていきます。

1926年 シュルレアリストに転身
ジョルジュデキリコの作品『愛の歌』に深く感銘し、画家になる事を決意します。
同年最初のシュルレアリスム作品『迷える騎手』を制作しています。

1927年 初個展
評判はかなり悪く、批評家たちの意見は辛辣でした。
「ここじゃ駄目かも」と思い、一念発起でパリに移住します。
この時のパリ行きの決断が成功します。
当時のパリはシュルレアリスムの最盛期でした。
シュルレアリストとして人気を得る事になります。
この頃のマグリットの作品には不気味な物が多く見られます。

1930年 ブルトンと訣別
表現が暗いシュルレアリスト達に嫌気がさし訣別します。
この後ブリュッセルに戻るのですが世界恐慌の影響で、画廊から契約を打ち切られてしまいます。
絵で生計を立てる事をあっさりと諦め、銀行員になります。
銀行で働き、副業でデザインをやり、傍らで絵を描くという生活が始まります。

1940年 ドイツ軍侵攻
ベルギーはドイツの占領下に置かれてしまします。

1943年 ルノワールに影響を受ける
戦争の恐怖からなのかルノワールの様な明るい色彩の絵を描き始めます。
この頃をルノワールの時代と呼びます。

1947年 フォーヴィズムに影響される
牡牛の時代と呼ばれ大きな筆跡の作風にシフトします。
ですがこの頃の作品は不評ですぐにやめてしまいます。
戦後は少しポップで楽観的なシュルレアリスム作品を描いて行く事になります。
僕たちがよく知っているマグリットの作品はほとんどが晩年の20年に描かれた物です。
そして1967年癌で死去する事になります。

はいプロフィールなんですが

マグリットの人生は一見普通です、彼の日常は当時の典型的なサラリーマンの格好をして仕事に行き
お気に入りのカフェで知り合いとチェスを楽しむ、ほどほどの時間で妻の待つ家に帰る。
2度の大戦の経験はあったものの、基本的にはこの日常の繰り返しです。

ただし奇妙奇天烈なシュルレアリスムに興味を持つ人間が本当に普通でしょうか?
マグリットは平凡な毎日を送る傍らで普通ではない絵を描いていました。
しかもアトリエではなく自宅の片隅で描いていたのは驚きです。
大変几帳面な性格で常に身なりを整え、しっかりした生活を送っていましたが
ここには普通である事への異常なこだわりが見えます。

彼の特徴は表と裏の2面性です。
読み解く鍵はやはり作品にあると思います。

マグリットの作品を読み解くキーワードは4つです。

  • 1、初期のシュルレアリスム作品に見られる人の深層心理
    2、イメージの裏切り
    3、テペイズマンと呼ばれる独自の技法。
    4、全てを統合した晩年の作品

それでは作品を観てみましょう。

1.人の深層心理

1927年the double secret/秘密の分身

初期のシュルレアリスムの作品には怖い作品が多いです。
分裂した人物の片方は表面を、もう片方は表情の裏側に存在する何かが描れています。
狂気なのか恐怖なのか、あまり気持ちのよくない何かではあると思います。
この絵は人間の心の裏側には何か秘密が隠されているというのを暗示しています。

もう一枚見てみましょう。

1928年The Lovers/恋人たち

この布は子供の頃に体験した母親の死が反映されてると言われていますが
マグリット自身は実は否定しています。

恋人つまり親しい間柄にも実は明かす事できない秘密があり、それが時として
障壁となり孤立や欲求不満を生み出している誰もが秘密をもって生きてること
抑制の描写ではないかと言われています。

この隠す行為で中身を想像させるのがマグリット作品の特徴です。
やはりこれも人の真相心理に迫ろうとしてるんじゃないかと思われます。
マグリット作品の魅力は見えない部分を想像させる事で深層心理に訴えかけ
鑑賞者自らの内面を覗かせる描き方にあると思います。

2.イメージの裏切り

1929年The treachery of images/イメージの裏切り

パイプの絵ですが問題作です、下に「これはパイプではありません」と書かれています。
どう見ても「パイプじゃん!!」となると思うのですが、どうやら絵は本物のパイプではなくただのパイプのイメージであると言ってるらしいです。
マグリットはオブジェクト(ここではパイプ)が言葉に対応しているという従来の概念を利用しました。
この後こうい作品たくさん作るので、もしかしたらマグリット作品を観る時はタイトルと図像の関係は疑ってかかった方がいいかもしれません。
マグリットはイメージと言葉を巧みに操り人の心理に訴えかけます。

3.テペイズマン

1934年The red model/赤いモデル

不思議な作品です。
マグリットの作品にはテペイズマンという手法が使われています。
テペイズマンは[本来Aの場所にあるものをわざとBという場所に持ってくる]という手法です。
現実的でありながら、どこか非現実的な世界を作り出しています。
この手法はあくまで非現実世界が現実の延長線上にあるというシュルレアリスムの考えとの相性が抜群でした。

赤いモデルはゴッホのペアになった靴の絵の中にイメージの裏切りを見て制作されました。
足と靴の様に親和性を持ちつつ2極化しているオブジェクトを融合する事で別の観念を生み出そうとしています。
なかなか謎めいていますね、マグリットの作品は哲学者がよく研究対象にしていました。
宇宙心理的なことなのかな?(多分違う)

4.晩年の集大成

1963年The big family/大家族

晩年の20年は僕たちのよく知るマグリット作品が登場します。
今まで説明した手法がふんだんに使われています。

絵のタイトルは大家族になっていますが、家族に関連するものは一切描かれていません。
タイトルと紐づけて考えるなら背景は曇った空と荒れそうな海これは多くの家族が経験する苦難と試練を表してます。
また水平線にはピンクの明るい光が描かれています、これは苦難の終わりを意味していると言われています。
鳩はおそらく平和の象徴、家族の愛、団結を意味してるのではないかと言われています。

どうでしょうか、一見関係なさそうなオブジェクトが実は関連性を持って、一つの物を表現している。
マグリットの作品の魅力はイメージの面白さとそこに仕掛けられた意味や問いかけにあると思います。
解釈の正否に関わらず描かれているものを結びつけて作品に隠された作者の深層心理を読み解いて行く面白さです。
誰かとあーでもないこーでもないと話すのもいいかもしれません。

マグリットまとめ

はい作品見てもらいましたがいかがでしょうか?

一貫して言えるのは
深層心理や人の裏側にある物にもの凄く興味があったのかなと思います。
マグリットは母の死を通して人は突然狂気にかられる事がある事を知っていました。
彼はその狂気は自分の中にも存在していると自覚していました。
戦時中にはわざと明るい絵を描いたり、日常を平凡に過ごし普通で在る事にこだわりを見せたのは
自分の深層心理に潜む狂気が表に出る事への恐怖だったのかもしれません。
同じシュルレアリストのダリはあえて狂気を演じることで、狂気を利用しましたが、
マグリットは人間の中の狂気を知ってるが故にあえて普通を演じていたのではないでしょうか。
自分の内面にある恐ろしくドロドロした精神を自覚し抑制しつつも強く引きつけられていたのだと思います。

人は誰でも仮面を被って生きていると思います。
マグリットの作品に対面した時、普段は隠している自分の内面を覗く事になります。
「本当のあなたはどんな顔をしていますか?」マグリットの作品はそんなことを問いかけてるのかもしれません。

Yuki Izumi


https://www.wikiart.org/en/rene-magritte
https://en.wikipedia.org/wiki/Giorgio_de_Chirico